前置きをしておくと、今回の取材は、ある時点から取材ではなくなる。
僕が質問をしながら、メモとICレコーダーで取材相手の返答や発言を拾ってゆく一連の進行は、動作的にはまぎれも無く取材だ。
だが、実は違う。
今回の取材に似た行為が何かを表すのに、最適な言葉がある。
それは「観察」だ。
動物園で極楽鳥を観察するように、僕は新宿のとある喫茶店で観察した
「極楽ぴ〜こ☆」こと比留間麻衣(22歳)の観察日記を、これから書き進める。
ところで、僕は人に取材をさせていただく際、事前にその人のブログや
ホームページ(あればだが)をチェックし、取材ノートに書き連ねてゆくことにしている。
麻衣に取材を行う際、僕が取材ノートに書き連ねた内容は以下の通りだ。
・高校卒業後、東京スクールオブミュージック
・月島出身 22歳
・パソコンの学校に行ってた?
・「お笑いのジャンルで欲しい」とプロダクションに誘われる
・お笑いに憧れ
・同人舎で稽古(劇団?養成所?)
・ミミミばあさん(学校でやった役)
・ジョナサンでバイト、派遣でバイト
・洋服(和服)作りが好き
・ティッシュ配りの青年を新宿で見た
・仕事でMCなどをしている
・女性が好き?
・カブキングZ(ホスト役)
・師匠という存在の人
・構成の勉強をしている
・4/25、悩むことがあって体調を壊した→考えていることがある
・色々な人と知り合いたいけど、悩みも増えてく。一人が好き
・劇団シナチク(世話になっている人の劇団)
・女子プロレスにはまっている
・7/20のブログ。楽しみが増えた!報告がある
・朗読スクール
と、なぜこのように面白くも無い取材の裏側を公開したのかというと、
実は今回の取材に限っては、上記の事前準備が殆ど役に立たなかったからだ。
その原因は比留間麻衣の器の大きさのせいか、インタビュアーとしての僕の力量不足のせいかは定かではないが、とにかくこの想定外の事態が呼び込んだ産物が、この原稿なのである。
では、本編スタート。
中学生の頃から気がつけばタレントになりたいと思っていたという麻衣は、現在芸能事務所に所属し、ライブでのMCを中心に活動しているタレントである。
「つい最近もアルタ前のステージでMCやったんですけど、大変だけどやりがいがあるっていいなって改めて思いました」
と麻衣は語る。
「トークが上手くなりたいとか、もっと大きな引き出しを持ちたいとか、成長しようっていう気持ちができて、事務所のレッスンでも台本の読み方がうまくなったって言われるようになったりするんです。
けど、回りから頑張ってるって思われるためにはもっと努力が必要ですね・・・あ、ありがとうございます!」
MCの活動について話を聞いている最中だった。注文したカレーライスが運ばれてくると、途端に麻衣は目を輝かせた(ちなみに、麻衣が本領を発揮し始めたのはこの辺りからだ)。
麻衣は目を輝かせて、本当に美味しそうに、カレーを一口一口味わって食べた。
「ああ、美味しい!幸せ・・・」
身長148cmと小柄な麻衣だが、過去に中華料理の食べ放題に行き、二十五皿もの料理を食べて動けなくなり、友人に置いて帰られた過去を持つ。
あまりに美味しそうに食べるので、僕がその姿を撮ろうとカメラを取り出すと、
「そういえば、私も結構写真あるんですよ。友達に見せると苦情ばっかりなんですけど・・・」
と言いながら麻衣は携帯を取り出し、以前撮ったという写メを見せてくれた。
新宿にあるスーツ屋の看板だが、本来は、
「大きいビッグサイズ
インポート」
らしいのだが、写真では、
「大きいビッグ
インポー」
と写っていた。
麻衣が僕の反応をじっと伺っているのが分かる。
「明らかに狙って撮りましたよね?」
僕が言うと、彼女は澄ました顔で首を振った。
「何言ってるんですか。狙ってないですよ。スーツが安いお店だから、撮ったんですよ。私、お店の看板とかよく撮るんですよ」
続いて麻衣は、以前バイトをしていたジョナサンでの失敗談を話し始めた。
「お客さんに、本日の日替わりランチはハンバーグの大根おろし添えって言おうとしたんですよ。女のお客さんだったんですけど、ダンコン添えって言っちゃったんですよ」
彼女は澄ました顔で言葉を続ける。
「ダンコンって、銃で撃たれた痕のことでイメージ悪いじゃないですか。良くないですよね」
弾痕のはずがあるわけない。麻衣は明らかに、自分の手を汚さずに下ネタを言っていた。
かと思うと、彼女は突然おかしそうに笑い始める。
「今日、事務所の後輩のアヤちゃんが、店員に無視されてたんです。
それが超面白くって」
僕は戸惑いながらも、何があったのか聞いてみた。
「ファミレスで、アヤちゃんがマンゴーパフェに濁点を付けないで注文しようとしたら、店員全員に無視されたんです。そしたらアヤちゃん、一人で店員ごっこ始めちゃって!
あー、面白い、助けて・・・私、面白いことあるとずっと笑っちゃうんですよ」
そもそも僕がアヤちゃんのことを知るはずもなく、僕にできることは
作り笑いを浮かべることくらい。
実はこの他にも、「ティッシュ事件」や「マックロクロスケ事件」など、麻衣が巻き起こした面白すぎる事件を幾つか伺った(ちなみに少々悪ふざけが過ぎる内容だが、決して犯罪ではない)。
当初はここに書いても良いという許しが出ていたのだが、僕が何気なく言った一言が麻衣の気を変えた。
「こんな内容書いて、麻衣さんのブログが炎上しなければいいですけどね」
途端に麻衣の顔色が曇った。
「・・・炎上ですか?」
実は、麻衣が書いているブログは、一日に1500人以上がアクセスし、
ブログランキングで常に1位を保ち続け、累計60万以上のアクセスを誇る、有名タレント並みのおばけブログなのだ。
麻衣はブログにとても強い思い入れを持っており、ランキング1位をいつまでも死守し続けたいのだそう。
というわけで、万が一の炎上を回避するため、残念ながら幾つかのエピソードはお蔵入りにさせていただく。
自称・落ち込みやすい楽天家で、ハムスターのように本能のままに行動する女。
カレーを美味しそうに食べ終えた彼女は、気持ち良さそうに目を細める。
「あぁ、おなか一杯になったら眠くなっちゃった。私、友達によくハムスターみたいって言われるんですけど、本当に本能のままでハムスターみたいですよね」
言いながら、眠いという言葉で思い出したのか、麻衣は友人宅に泊まったときのエピソードを語ってくれた。
「友達の家に泊まったとき、起きたら顔中にゲド戦記って書かれていたんですよ。嫌じゃないですか。もう書かれたくないじゃないですか。だから、次に泊まったときは、ベッドを二つ並べて、落書きされないようにその隙間に顔を入れて眠ったんです。
そしたら足にゲド戦記って書かれてて、しかも床見たらヨダレが水溜りになってて!ばれないように慌てて靴下で拭きました」
このままでは取材にならないと危惧した僕は、慌てて取材ノートをめくり、ミミミ婆さんと書かれた箇所で目を止めた。
麻衣が専門学生時代に舞台で演じた役、ミミミばあさん!
この役だけはどうしてもやりたかった役だと、麻衣がブログで熱く書いていたのを思い出したのだ。これはきっといい話が聞けるに違いない!
「ミミミ婆さんは、思い入れがあった役だったんですか?」
「いえ、今思うとそれほどでも・・・」
「・・・」
あっさりと否定されて気を落とす間もなく、僕は気持ちを切り替えて、
改めて取材ノートに目を落とした。
比留間麻衣という名前は芸名らしいのだが、母親の旧姓から取った
名前なのだそうだ。何か家庭の事情を抱えていて、よほど母親に思い入れがあってつけた名前なのだろう・・・。
僕がしんみりとした心持ちになってそう尋ねると、麻衣はまたしても
あっさり首を振った。
「いえ、別に。珍しい名前の方がいいかなって思って」
「・・・」
さらに僕が質問を探している最中、麻衣は夢中になって手を動かしていた。
何をしているのかと思えば、備え付けの紙ナプキンを千切って人形を作っていた。
「これに水をかけると動くんですよ」
麻衣はそう言うと、グラスの水を紙の人形の上にこぼした。
果たして、人形は苦しみもがくかのように体をくねらせ、そしてぐったりと静止した。その様子を見て、麻衣はにっこりと微笑んだ。
勝てないや、と僕は思った。
そんな風にどこまでもマイペースな彼女だが、意外にも乙女な一面を見せてくれた。
彼女には憧れの男性がいるらしいのだが、僕がその話題を振ると急に無口になり、
早く他の話題に移ってくれと言わんばかりに、僕と目を合わせようとしなくなった。
本気で恥ずかしがっていたその姿が、実は一番印象に残っている。
夢は何ですか?と尋ねてみた。
「二十代半ばくらいになったら、結婚して引退しようかなって。芸能活動をずっとやって行こうとは思わないですね。いつかそのうち結婚して、ぱたっとやめようって。多分、結婚願望は強い方ですね」
その発言が真意か気まぐれなのかは、分からない。
最後に、麻衣が以前名乗っていた「極楽ぴ〜こ☆」という芸名の理由を尋ねてみた。
すると、どこまでもシンプルな、彼女らしい答えが返ってきた。
「極楽鳥が好きだからです」
比留間麻衣さんのブログはこちらです
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http://www.222.co.jp/blog/blog.aspx?ID=3486
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